【音楽】名曲・名演セレクション その254 The Smiths / How Soon Is Now?

 という事で今回はベーシストだったAndy Rourkeが先日亡くなったThe Smithsです。色々選曲に迷った結果あまりベースが目立つ曲ではないのですが、よく耳を傾けて頂ければ秀逸なベースラインが聴こえてくると思います。

 

 The Smithsの6thシングル。詳しくは後述。

 The Smithsは1980年代UKインディーを代表するManchester出身のロックバンド。ある種の人間にとっては聖典のような存在と言えようかと思います。1982年、引きこもりの文学青年Morrisseyの元に地元では有名な若手ギタリストだったJohnny Marrが訪れた事を切っ掛けに結成。シンガーとギタリストでありソングライターチームでもあったこの2人がThe Smithsではどうしても目立ちがちなんですが、ベース:Andy Rourkeとドラム:Mike Joyceのリズム隊2人もちゃんと聴けば優秀だというのが伝わってきます。この記事書くにあたってThe Smithsを聴き直して、そういうバンドとしての基礎体力の高さがしっかりあるから伝説として古びないんだなと思った次第。という前提を踏まえた上でですけど、The SmithsというバンドをスペシャルたらしめてるのはやはりMorrisseyの書いた歌詞ですね。‘Meat Is Murder’ ‘The Queen Is Dead’ などその辺のパンクバンドよりよっぽどパンクな社会的メッセージや、‘Still Ill’ ‘There Is a Light That Never Goes Out’ など一般人ドン引きレベルの陰鬱な歌詞など、それらを文学的な言葉遣いで美しく修辞しながら容赦なくぶつけてくる、その唯一無二感に心を深く抉られてる方が多いのだと思います。実際、この40年でThe Smithsのフォロワーは数多くいたけど、The Smithsに取って代わるようなバンドは現れてないよなぁというのが私の所感です。

 ‘How Soon Is Now?’ について。元々は5thシングル ‘William, It Was Really Nothing’ のB面曲として発表された (所属していたRough Tradeの偉い人から「あまりThe Smiths的なサウンド、シングルにふさわしい曲ではない」と判断されたらしい) んですが、ファンからの高い人気を受けて6thシングルとしてリリースされ直したという経緯があります。オリジナルアルバムには未収録の楽曲で (2nd “Meat Is Murder” に収録されてる事もあります)、聴くにはベストアルバムの他、上で貼ってるコンピ “Hatful of Hollow” などがあります。この “Hatful of Hollow” が名盤なんですよね。初期シングルや1stアルバム収録曲のより演奏がこなれたラジオテイクが収録されてて、The Smithsの初期の総決算としては1stアルバムより好きという方も多くいる作品です。ただこの “Hatful of Hollow” が現状入手困難なんですよね…。レコード会社には是非ともちゃんとリリースして頂きたいところです。

 話を ‘How Soon Is Now?’ に戻します。曲のイメージを決定づけてるのがJohnny Marrによる各種エフェクトを駆使した空間的なギタープレイですね。例えばイントロのサウンドFenderアンプのトレモロを駆使して作ったらしいです。詳しくは以下を参照。

How Soon Is Now? - Wikipedia

 後になってみるとJohnny Marrが色々な志向性を持った人である事がよく分かるんですが、恐らく当時のMarrの中に単なる '60年代の回顧主義者として扱われる事への反発があったんでしょうね。その結果、それまでのThe Smithsの典型的サウンドから外れた、当時としては非常に先進的なサウンドを持ったこの曲が産まれたわけです。歌詞的には陰鬱路線の代表的な一曲ですね。一番最初の「I am the sun and the air」と全能感漂わせてるように見せかけて、実はsun→son、air→heirで更に次のラインで落としてくるってのは上手いなと思います。なんでもGeorge Eliotの作品から影響を受けたラインらしい。「I am human and I need to be loved / Just like everybody else does」のところの最高に惨めな感じはRadioheadの ‘The Bends’ に影響を与えてそうですね。あと最初に書きましたけどAndy Rourkeのベースラインも良いです。氏の特徴であるソリッドなファンキーさがここでも発揮されてるかと思います。典型的The Smithsサウンドという訳では無いんですが、一曲選ぶならこれになったんですよね。Johnny Marrも現在最も人気のあるThe Smithsの曲でないかと感じてるそうです。