【音楽】名曲・名演セレクション その136 Saul Williams & Nine Inch Nails / Banged and Blown Through (Live)


NIN: Banged & Blown Through live w/Saul Williams 5.10.09

 以前SoftBankのCMにこの曲が使われていたのを憶えている方もいらっしゃるのでないかと思います。Saul Williamsの3rd、“The Inevitable Rise and Liberation of Niggy Tardust!”の13曲目。2009年5月10日、NINのライブにSaul Williamsがゲスト出演した際の映像になります。

 Saul Williamsは米のラッパー、詩人、俳優など。1998年のインディペンデント映画“Slam”で主演した事で脚光を浴び、以来7作の音楽アルバム、6冊の著作など多分野での活動を続けています。音楽家としては、ラッパーと詩人の間みたいなスタイルと社会的なメッセージ性が特徴でしょうか。

 Nine Inch Nailsに関しては以前も取り上げました。アレな記事なんですが、一応説明はちゃんと書いてたのでセルフ引用します。

kshn.hatenablog.com

Nine Inch NailsはTrent Reznorによるプロジェクト。インダストリアルと呼ばれるロックジャンル(簡単に説明すると打ち込みの導入や騒音のサンプリングが特徴のジャンルです)をメジャーにした立役者であり、90年代はカリスマ的な人気を誇り、特に94年に発表したThe Downward Spiralはその前年に発表されたNirvana / In Uteroと並んで病んだロックを代表する一枚と言って良いかと思います。最近だとDavid Fincher他と組んでの映画サントラ仕事で御存じの方も多いんじゃないかな。

  情報を足しておくと、近年音楽的な右腕を務めているAtticus Rossと、アートワークを担当する事の多いRob Sheridanは関連重要人物です。両者ともこの“Niggy Tardust!”にも関わってます。

 でさて、今回取り上げる“Niggy Tardust!”(一応書いておきますけどDavid Bowieの“Ziggy Stardust”へのオマージュですね)はSaul WilliamsをTrent Reznorがプロデュースした作品になります。5ドル払って高音質音源をダウンロードか、無料でそこそこの音質の音源のファイルのダウンロードか、好きな方を選べるというリリース方法でも一部話題となりました(現在はCD、LPでもリリースされています)。まぁ、残念ながらあまりうまく行かなかったみたいです。最近もMike Vennartがtwitterで何か揉めてましたけど、このアルバムがリリースされた2007年当時はRadioheadの“In Rainbows”のリリースであるとか、横行していた違法な音楽ファイル交換であるとか、音楽の価値とは?という問いがクローズアップされていた時期でした。ちなみにSpotifyのサービス開始が2008年です。多分私みたいな毎月音楽に数万円使うような類は変人のカテゴライズで、大抵の人々はできれば音楽は無料で済ませたい、って感じなんでしょうね。

 話を音楽性に移します。このアルバム、クレジットが複雑でして、どの範囲がTrent Reznorの仕事なのか区別が難しいのですが(一応この曲はTrent Reznorが中心となって手掛けたようです)、アルバム全体としてはTrent Reznorが関わった作品の中でも最良のものの一つと言って良いのではないかと思います。NINみたいにコードと分厚いギターサウンドで聴かせるよりは、ビートとループとノイズで聴かせる感じですね。まぁTrent Reznorの得意技の一部を抽出したらHip Hop的になったって感じですかね。インダストリアル・ロックとHip Hopって、どっちもサンプラーが重要な役割を果たすという点ではとても近しいんですよね。ただ聴いた上での印象としては、Saul WilliamsのヴォーカルスタイルもあってそんなHip Hopな感じはしない作品です(かと言ってインダストリアル・ロックでもないんですけどね)。なんでHip Hopに拒否反応のある方も、特にNINのファンなら是非聴いてみて欲しい。Trent Reznorの仕事だと思われる、ビートプログラミングだったりギターによるノイズだったりも冴えまくっておりますので。この曲なんかは、明らかにNINでは表現されないような音楽で、現在のサントラ仕事を予見させるものがありますね。