【音楽】名曲・名演セレクション その256 Bright Eyes / Old Soul Song (for the New World Order)

 Bright Eyesの6thアルバム “I'm Wide Awake, It's Morning” の3曲目。

 Bright Eyesは米Nebraska州出身のConor Oberstを中心とした音楽プロジェクト。レーベルのバイオが詳しいんで貼っときます。

BIOGRAPHY - BRIGHT EYES | ブライト・アイズ - UNIVERSAL MUSIC JAPAN

 私のBright Eyesとの出会いを書きますと、今は亡きSNOOZER誌の2002年ベストアルバムランキングですね。まだ洋楽ディグ歴が浅かったんでそんな詳しくも無かったんですけど、そのランキングの2位にそれまで名前を聞いた事の無かったBright Eyesの “Lifted or The Story is in the Soil, Keep Your Ear to the Ground” が入ってて、興味持って聴いてみたら凄く良かった。世間的にもその “Lifted~” がブレイクへの足掛かり的作品でして、あとブレイクへの切っ掛けとしては2004年のVote for ChangeツアーでBruce SpringsteenR.E.M.と共演したのも挙げたいです。イラク戦争を起こした子Bush大統領の2期目当選を食い止めようという目的でロック界の大御所達が一緒に全米をツアーして、結果としてその目標は果たされなかったんですけど、そこにBright Eyesもフックアップされて、インディー音楽専門リスナーみたいな層以外にもBright Eyesの名前が知られたのは大きかったと思います。でVote for Changeツアー後の2005年に作風の違うアルバム “I'm Wide Awake, It's Morning” と “Digital Ash in a Digital Urn” を2枚同時リリース、前者がUS Billboard 200で10位に入ります。この頃はConorがNext Dylanと呼ばれたり (まぁ大物っぽい男性SSWが出てきたら大体そう呼ばれますけど) もうセルアウト待ちという感じだったんですけど、結果としてはそうならなかった。相当癖の強い歌声もその一因かもしれない (Conor自身も “I'm Wide Awake~” の最終曲 ‘Road to Joy’ の歌詞で「I could have been a famous singer / If I had someone else's voice」と歌ってます) ですが、Conor自身の安直なセルアウトを拒否する意思が大きかったのかなと私は思ってます。また “I'm Wide Awake~” の歌詞から引用しますと、6曲目 ‘First Day of My Life’ の「I'd rather be working for a paycheck / Than waiting to win the lottery」という部分ですね。この価値観は当時とても新鮮に映りました。別に売れたいという意思を否定する気は無いんですけど、自身に妥協無く創作活動を続けてそれで食っていけるというのはまた素晴らしい事でないでしょうか。因みに最近のインタビューによると、売れたいとかそういう欲求はますます減退しているようです。

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 本楽曲について。Bright Eyesはバックボーンがフォーク/ カントリーとされながらも、楽曲のアレンジが地元の音楽仲間を招いてのオーケストラ・サウンドからベッドルーム・エレクトロ・ポップまで多彩なのが特徴なんですが、この曲は音楽家集団としてのBright Eyesのスタンダード・アレンジと呼べる一曲かと思います。上に貼ったインタビューにある通り米伝統音楽の継承に意識的な彼らなんですが、丁寧に水彩絵の具を塗り重ねるようなアレンジからは、ポスト・ロック的、伝統の21世紀的なアップデートへの意欲を感じます。あとはConorの歌声ですね。先程相当癖の強いと書いた通りフラジャイルな歌声なんですけど、聴きなれてくるとこの歌声が繊細なストーリー・テリングと抜群に嵌るんですよね。でその一方でシャウトがやたらカッコいい。貼ったバイオにある通りCommander Venusというエモ・バンドから音楽キャリアをスタートしたという経歴がさもありなんという感じ。歌声よりシャウトの方が得意なフォーク・シンガーなんてConorくらいでしょうね。