【音楽】名曲・名演セレクション その148 Brian Eno / Discreet Music

 今回御紹介する曲は長いです。30分あります。お時間のある時にどうぞ。

 

  Brian Enoの1975年発表ソロ4thアルバム“DIscreet Music”の1曲目。ところでこの曲、LP時代はどうしてたんでしょうか。途中でぶった切って収録してたのかな?

  Brian Enoは英出身のミュージシャン・プロデューサーです。アラフォー以上にはWindows 95の起動音を作曲した人というと通りが良いかもしれません。

  これです。懐かしいですね。元々はRoxy Musicシンセサイザー奏者としてデビューし2枚のアルバムに参加した後バンドを脱退、以降はソロでの音楽活動やRobert Frippなどとのコラボレーションを通して音楽を発表、視覚芸術のインスタレーション作品などにも多く参加しています。プロデューサーとしてはDavid BowieU2Coldplayなどとの仕事で大ヒットを飛ばしている他、単なるプロデューサーを越えて今回御紹介するアンビエント・ミュージックのシーンの発展に大きく寄与したり、傑作コンピ“No New York”のプロデュースを手掛けてNYのNo Waveシーンを世界に知らしめたりと、広い視野を持っての仕事が特筆すべき点かなと思います。Oblique Strategiesの創作活動への導入は現代アート的な文脈で理解するべきものですし、そういう現代アートの筋からも高い評価を受けている音楽家です。本人も音楽家というよりはアーティストって感じの意識みたいですが。

 でさて、今回御紹介する‘Discreet Music’は後にEno自身が評価したところ、Enoが初めて作ったアンビエント・ミュージックの作品です。Ambientと作品に冠してリリースされたのは78年の“Ambient 1: Music for Airports”が初になります。でアンビエント・ミュージックとは何ぞやという事でEnoによる定義を借りると「聴き手に向かってくるのではなく、周囲から人を取り囲み、空間と奥行きで聴き手を包み込む音楽」との事です。聴き手に支配的に作用するのではなく、聴き手のいる空間にある種の環境を作り出すための音楽と言えば良いでしょうか。この定義をより深く理解するためにはEnoが持っていた2つの考えを知ると良いかなと思います。まず1つ目が既存のポピュラー音楽に対する批判的態度ですね。Enoは既存の音楽が聴き手である大衆を注意力が無く飽きやすいと決めつけ、分かりやすいリズムやアレンジの曲ばかりである事を批難していました。特にミューザック、スーパーなんかで流れてるポップスをアレンジしたインストのアレです、の事は嫌っていたようですね。その反動として、アンビエント・ミュージックは派手に展開したりせず緩やかに変化していくような音楽になってます。ただEnoは自身の音楽を全てちゃんと聴いて欲しいと思っていた訳では無く、何なら聴き流してくれても全然OKという態度だったようです。耳を傾けた時にがっかりしないよう、作り手として鑑賞に堪えるようなものにしたいという意識はあったようですが。もう1つが音響に対する嗜好ですね。音楽の情報は音韻(メロディー、コードなど楽譜に記載される情報)と音響(音色、音質、音量)に大別されます。昔は音韻しか情報として無かったけど、録音機器の発展によって音響情報も大衆に共有されるようになったってのは前Steve Reichの時に書きましたね。Enoは音響に対する嗜好が強く「Elvisの歌よりもその歌のエコーが好きだった」と語る程の筋金入りの音響フェチです。なのでアンビエント・ミュージックも音響的な要素が強く、音の響きによって空間を形成するというのが大きなコンセプトになってます。あとアンビエント・ミュージックの源流としてはEric Satieの“家具の音楽”の影響が大きいようです。正直私はその辺詳しくないんですが、らしいです。

 という訳で楽曲‘Discreet Music’ですが、Generative Musicというコンセプトにに則り、長さの違う単純なメロディが録音されたテープが特殊なテープ・レコーダーで繰り返され、お互いが脈絡無しに重なり合うという方式で制作されました。元ネタとしてはSteve Reichの楽曲‘It's gonna rain’などに見られる「漸次的位相変移プロセス」ですね。Generative MusicというとAutechreもそうでしたね。そういう繋がりを意識して音楽を聴くとより一層面白いかなと思います。