【音楽】【書評】commmons:scholaを十五巻まで読んでみた

 春休みなので本でも読もうと思いその一環として、YouTubeで講義動画を見て興味を持ったcommmons:schola(ミスタイプじゃないですよ)を近所の図書館にあった十五巻まで読んでみました。

 commmons:scholaというのは、

(ここから引用)

schola(スコラ)はラテン語で「学校」の意味。
commmons: schola(コモンズ・スコラ)は、坂本龍一の監修によるユニークな「音楽全集」です。
クラシック/非クラシックを問わず、世界中の様々な音楽をテーマ に取り上げ、各界の専門家とともに厳選した楽曲を収録したCDと、重厚な解説ブックレットが一体化しています。

(ここまで引用)

という事です。上にある通りバッハなんかのクラシックの王道だけでなく、ポップスやらアフリカ音楽やら様々なジャンルに広がってるのが特徴の一つかと思います。

 まずは各巻に共通する構成の特徴を。各巻はCD一枚(最新のロマン派17巻だけ二枚)と本のセットになってます。CDはそれぞれのテーマ毎に坂本龍一含む各専門家が選曲したコンピレーションです。私の印象ですが、必ずしも王道を意識しての選曲ではなく、各選者が面白いと思う、また各テーマの理解に資すると考える曲を選んでるのかなという感じです。例えばJazzでColtraneは入ってるんですけどMiles Davisが選ばれてません(推薦盤には複数入ってます)。まぁそんな感じですけどどれもなかなか聴き応えはあります。

 本の部分ですが大体100ページ程で、坂本龍一と各専門家による各曲と大テーマに関する分析を中心とする座談会と、原典解説、推薦盤の紹介がメインです。大体二時間もあれば一冊読み終わりますね。内容に関して、教科書的な基本事項は本の最後に年表が付いてるくらいで、それぞれのテーマをより深く理解するためのヒントといった内容がメインになります。まぁ基本事項はwikipediaでも読めという事でしょうか。

 で本の専門性、難しさについてですが、一応注釈は細かく付いてますし、あまり音楽に関する専門的な知識の無い方でも、読む前にwikipediaで各音楽家の経歴なり確認しておけば、まぁ八割は分かるかな…?という感じです。音楽理論に関してもそんな難しい話は無いんですが、ただジャズの巻なんかはなかなか専門的で、私も一般的な人に比べれば楽理を理解してる方だと思うんですが、難しかったです。あとこれはクラシックの巻においてなんですが、当時の時代精神と照らし合わせて音楽を考えるという事で、哲学の話題も一部の巻で出てきます。要求知識レベルとしては、高校の倫理を真面目に学んだ方ならば取り合えずついていけるのではないかと思います。つか教授、音楽以外の話題に関しても教養が凄ぇわ。流石あだ名が教授は伊達じゃないといった感じ。ブラックミュージックも詳しくないとかおっしゃってるけど普通にめっちゃ詳しいし。

 

 ここからは各巻の短評に移ります。

commmons: schola vol.1 J.S. Bach Ryuichi Sakamoto selection

commmons: schola vol.1 J.S. Bach Ryuichi Sakamoto selection

 

  一巻目という事でまずはバッハですね。バッハ?何故?と思う方は是非この本を手に取ってみて頂きたい。CDのセレクションは、私でも知ってるGouldやRichterから日本人の奏者まで幅広く選ばれているなという印象。まぁ私はクラシックの定番とか知らないんで正直良く分からないんですが。あと本読んで、Furtwänglerのマタイ受難曲聴いてみたくなりました。

コモンズ:スコラ ヴォリューム2 ヨウスケ・ヤマシタ セレクションズ・ジャズ

コモンズ:スコラ ヴォリューム2 ヨウスケ・ヤマシタ セレクションズ・ジャズ

 

  で二巻目でいきなりジャズに飛ぶ。この辺がこのscholaシリーズの面白さですかね。楽曲や推薦盤のチョイスから座談会まで山下洋輔が全面的に参加。CDはジャズ勃興期からフリージャズの兆しまでを駆け足で見ていくといった感じです。あと上にも書いた通り、この巻は音楽理論的にちょっと難しいです。モード理論とかある程度理解してないと100%理解できないと思う。

コモンズ:スコラ ヴォリューム3 サカモトリュウイチ セレクションズ ドビュッシー

コモンズ:スコラ ヴォリューム3 サカモトリュウイチ セレクションズ ドビュッシー

 

  三巻目はドビュッシーです。教授が多大な影響を受けたと公言するドビュッシーを語るという事で、これは気になっていた教授のファンも多いのではないかと思います。自分をドビュッシーの生まれ変わりだと信じていたという少年時代のエピソードも出てきます(笑)CDはピアノロール含めドビュッシーの自演音源が三曲収録されています。ドビュッシーが手掛けた様々なジャンルをバランス良く収録しているという感じでしょうか。

コモンズ: スコラ ヴォリューム4 サカモトリュウイチ セレクションズ ラヴェル

コモンズ: スコラ ヴォリューム4 サカモトリュウイチ セレクションズ ラヴェル

 

  ドビュッシーに続いて四巻目はラヴェルです。ラヴェルで一巻まるまるって贅沢な話ですね。こうやって対比してみると、同じ印象派というくくりですがドビュッシーラヴェルの違いも見えてきます。ラヴェルは職人的な感じですね。ラヴェルと言えばお馴染み「ボレロ」は本人が指揮をした音源が収録されています。

commmons: schola vol.5 Yukihiro Takahashi & Haruomi Hosono Selections: Drums & Bass

commmons: schola vol.5 Yukihiro Takahashi & Haruomi Hosono Selections: Drums & Bass

 

  五巻目は音楽ジャンルではなくドラムとベースという楽器に焦点を当てようという面白い試み。しかも選曲者が高橋幸宏細野晴臣。おまけにピーター・バラカン(この方もYMO以来の付き合いですからね)もゲストに呼んで、ディープなポピュラーミュージック談義が交わされています。CDはブラックミュージック中心なんですが、何とYMOThe BeatlesSly & the Family Stoneをカバーするという珍しい音源が聴けます。余裕の完コピです。

commmons: schola vol.6 Ryuichi Sakamaoto Selelctions:The Classical Style

commmons: schola vol.6 Ryuichi Sakamaoto Selelctions:The Classical Style

 

  六巻目はベートーヴェン以前の古典派、と言ってもモーツァルト以外は正直あまりそんな面白くなかったらしくCDは大体モーツァルトです。で残念ながら私はそのモーツァルトもイマイチピンと来ないんですよね。何でなのかは自己分析できてないんですが。で古典派がテーマとなればそもそも古典派って何よ?となる訳で、本巻は特別にゲストを招いての古典派対談というコーナーがあります。音楽を多面的に考える上でも興味深いのではないでしょうか。

コモンズ:スコラ ヴォリューム7 サカモトリュウイチ セレクションズ ベートーヴェン

コモンズ:スコラ ヴォリューム7 サカモトリュウイチ セレクションズ ベートーヴェン

 

  七巻目はベートーヴェンです。CDの楽曲チョイスが、ピアノソナタ三曲、交響曲三曲、弦楽四重奏一曲という事でとても分かり易いチョイスになっております。実はかねがねベートーヴェンピアノソナタ全集のCDが欲しいと思ってるんですけど、教授のお勧めはBackhausって人なんですかね。でもなんか買いにくいみたいなんですよ。うーん誰が良いんだろ。誰かお勧めとかあったらコメントにてご教授願います。で本の内容ですが、レンガ職人の比喩がとても分かり易いと思った次第です。成程、ベートーヴェンは武骨な動機を敢えて使ってたんですね。

commmons: schola vol.8 Eiichi Ohtaki Selections:The Road to Rock

commmons: schola vol.8 Eiichi Ohtaki Selections:The Road to Rock

 

  八巻目は大瀧詠一を主選曲者、ゲストに迎えThe Beatles以降のロックに多大な影響を与えたそれ以前の音楽を、R&B、ロックンロール中心にみていこうという巻です。五巻目とちょっとコンセプトが似てますが、あっちはソウルが中心でこっちはPresleyやLittle Richardなどが中心といった感じです。60年代英ロックがお好きな方なら、これがあのカバーの元ネタか的な楽しみがして頂けると思います。あと大瀧詠一の膨大な音楽知識を少しでもこういう形として残せたという意味で、意義のある巻でしょうね。

  九巻目はサティを中心とし、またサティと共振する二十世紀前半の音楽家も見ていくという巻で、小沼純一坂本龍一による共同選曲です。敢えてジムノペディなんかのド定番は外したとの事。教授のサティ演奏も一曲有り。サティが提起しケージが拡張を試みた二十世紀的音楽を読み解く上での一つのキーワードが時間感覚でしょうか。サティ的な試みとして教授が自作曲を紹介しているのもファンは見逃せないですね。

commmons:schola vol.10 Ryuichi Sakamoto Selections:Film Music

commmons:schola vol.10 Ryuichi Sakamoto Selections:Film Music

 

  十巻目は映画音楽という事で、アカデミー賞作曲賞受賞者が映画音楽を語るというクソ贅沢な一冊となっております。教授の映画音楽に対する方法論や影響を受けた先人の作品など、参考にしたい同業者も多いんじゃないでしょうか。CDですが、教授の趣味でしっとり目の作品、あと70年台前半辺りまでの作品が中心です。ただ、音楽だけでも十分楽しめるんですが、どうせなら映画の中でどう使われているのか観てみたいという思いは禁じ得ないですね。結構な数の映画が紹介されてるんで、気になったのを観るだけでもなかなか大変ですが。

commmons: schola vol.11 Kenichi Tsukada & Ryuichi Sakamoto Selections: Traditional Music in Africa

commmons: schola vol.11 Kenichi Tsukada & Ryuichi Sakamoto Selections: Traditional Music in Africa

 

  十一巻目は塚田健一と坂本龍一(二人は芸大の同期らしいです)の共同選曲による、アフリカの伝統音楽です。所謂ワールド・ミュージックでなく「お勉強」の色彩が強い選曲でもなく、「モダンな」響きを持つ伝統音楽を選んだとの事。私も以前たまに図書館で民族音楽のCDを借りて聴いたりしてた事もあるんですが、このCDはなかなか面白いです。幼女が当然のように平行三度でハモったり、パーカッションの名人技巧だったり、聴き所は多し。読み物の方も色々興味深い話がありますし、あまりこれまで伝統音楽に触れてこなかった方にもお勧めしたい。にしても最後の親指ピアノの音が良いなぁ。これだけでCD一枚欲しい。

commmons: schola vol.12 Ryuichi Sakamoto Selections: Music of the 20th century I (仮)

commmons: schola vol.12 Ryuichi Sakamoto Selections: Music of the 20th century I (仮)

 

  十二巻目は1945年以前の20世紀の音楽という事で、十二音技法の新ウィーン学派やロシア・バレエ団といった話題を中心にバルトークメシアンといった作家も個別に扱っていくといった感じの巻です。私のイメージでは十二音技法って冷たいような感じだったんですけど、このCDを聴いてみると、意外と普通に音楽だなという印象です。ところで皆さん、「春の祭典」聴いた事ありますか。プログレッシブなロックが好きな方は是非聴いてみて欲しい。初演時に暴動が起こったのも納得のなかなかイカレた、もとい素敵な作品です。興味のある方はYouTubeで「rite of spring」と検索してみて下さい。

commmons: schola vol.13 Ryuichi Sakamoto Selections: Electronic Music

commmons: schola vol.13 Ryuichi Sakamoto Selections: Electronic Music

 

  十三巻目は電子音楽がテーマで、現代音楽サイドからのアプローチがメインに扱われています(所謂テクノは別箇一巻使って扱う予定との事です。それも楽しみですね)。微分音からテープミュージック、マイクを使ったパフォーマンスまで幅広く選曲。電子音楽というテーマが境界的なのでどうしても議論が難しくなったり、アブストラクトな楽曲が多かったりといった所はありますが、刺激的な一巻ではあります。

commmons: schola vol.14 Ryuichi Sakamoto Selections: Traditional Music in Japan

commmons: schola vol.14 Ryuichi Sakamoto Selections: Traditional Music in Japan

 

  十四巻目は日本の伝統音楽という事で、各地の民謡から仏教の声明や雅楽など祭事音楽、更に尺八や琵琶といった楽器にフォーカスした音楽までバラエティ広く収録されています。テキスト部分は座談会で各種祭事音楽についてそれぞれゲスト(野村萬斎もゲストとして参加)を招いて話を聞き、さらに民俗音楽は寄稿文の形で補足、となっております。勿論日本人じゃなくても大歓迎ですが、日本人なら猶更その文化的ルーツ、一度は耳を傾けておきたいところですね。

commmons: schola vol. 15 Ryuichi Sakamoto & Dai Fujikura Selections: Music of the 20th century II - 1945 to present
 

  十五巻目は藤倉大を共同選曲者他ゲストに招いての、WWⅡ以降の現代音楽を見ていく巻です。座談会は大きな物語の無い時代に相応しく、音楽家や作品が(素人目には)無作為に挙げられていく、といった形式になってます(一応総括的なものはあります)。CDの収録音源ですが、私のイメージでは現代音楽って結構聴き苦しい(好きな方すみません)感じなんですが、選ばれた楽曲群は尖った所がありつつもまぁ聴けるなという印象です。ところで総括の中で、何でも有り的な状況はそのジャンルが「終わって」しまったからに他ならないといった指摘があるんですが、これはロック好きとしても耳が痛いですね。『KID A』以降色々リバイバルはありましたけど、圧倒的な新しさを持つロックって無かった気がする。何かありますかね?

 

 という訳で十五巻ざざっと見てきましたが、どれも各巻完結なので、気になったのから手に取って頂いて大丈夫です。その上で私が特に良かった巻ですが…そうですねぇ、五巻とかもっとブラックミュージック聴いてみたいなという思いを新たにさせられました。あと十二・十三・十五巻の所謂現代音楽も、思ってたより聴けたし色々漁ってみたいと思いました。

 十六巻以降についも触れておきます。既に刊行されているのでは、十六巻が日本の歌謡曲・ポップスで十七巻がロマン派音楽です。今後の刊行予定でこれから先テーマとして扱う予定が文中で言及されていたのが、テクノと20世紀のアメリカとソ連の音楽ですね。それ以外で考えらられるのが、まずアフリカと日本以外の伝統音楽。これはガムランとかカッワーリとかバグパイプとか、私が思いつくだけでも沢山あるんで、寧ろ何巻使ってまとめるかが課題でしょう。あと日本の歌謡曲・ポップスを扱ったのなら当然世界の歌謡曲・ポップスも考えられますし、そしてロックですね。音楽の好みに人一倍厳しい教授がロックをどう扱うのか、ちょっとした見物です。そして更にあるのか?ってのがHip Hopですね。あまり教授がお好きなイメージは無いですけど、現代のポピュラーミュージックを語る上では欠かせないと思われますので。

 という訳で今後も色々楽しめそうなんですが、近所の図書館に入荷されたら別に記事を立てて感想を書いていきたいと思います。ただ一つ気がかりなのが、近年刊行ペースが落ち気味な点ですが。教授が健康な内に完走して欲しい所です。

 

 おまけで参考になりそうな動画を紹介しておきます。


坂本龍一「戦場のメリークリスマス」解説

 教授がドビュッシーからの影響と絡めて「戦メリ」を解説してくれます。


タモリ倶楽部 2005年5月6日 ジョン・ケージのこれどうやって弾くの!?

 まぁscholaで扱われてるのはこんな面白現代音楽は無いですけど、現代音楽にはこんなのもありますよという事で。