【音楽】名曲・名演セレクション その252 Jeff Buckley / Morning Theft

 Jeff Buckleyの遺作となった、2ndアルバムとなる筈だった楽曲集 “My Sweetheart The Drunk” のDisc 1、9曲目。

 Jeff Buckleyは1990年代の僅かな期間のみ活動した伝説的シンガー、ギタリスト。父は'60~'70年代の伝説的SSW、Tim Buckley。と言っても父とは父がオーバードーズで亡くなる2か月前、Jeffが8歳の時に9日間会った事があるだけの関係で、同じくミュージシャンだった母のレコード・コレクションを切っ掛けに音楽に興味を持ち、Led Zeppelinプログレ、ジャズ、フュージョンなどを愛好する学生時代だったという。高校卒業後はHollywoodの音楽学校で学びバンド活動を積むも目が出ず、NYでの活動を目指すも上手く行かず、という風になかなかミュージシャンとして芽が出なかったJeffが音楽業界からの注目を集める切っ掛けとなったのが、1991年の "Greetings from Tim Buckley" と題された父のトリビュート・コンサートへの出演。父の葬儀に参列しなかった事がずっと引っ掛かっていたという内心のわだかまりの解消するための出演で、予告無しに登場し父の曲を2曲歌ったところ、それ以降大型レコード契約のオファーが殺到。しかしながら父の血のみが取り沙汰され自分の音楽がちゃんと聴かれていないと感じたJeffはNYの音楽シーンに腰を据え自身の音楽を深く追求していく道を選びます。まずはトリビュート・コンサートでも共演したGary Lucas率いるバンドGods and Monstersに参加 (この頃の音源も “Songs to No One 1991–1992” というタイトルでリリースされてます。)。Gary Lucasは後の1stアルバム収録曲 ‘Grace’ や ‘Mojo Pin’ の共作者としてクレジットされています。Gods and Monsters離脱後はSin-éなどのNYのカフェでギター弾き語りの活動を開始、この頃に自身の音楽を理解してくれるA&Rマンと出会いレコード契約を締結、まずは1stアルバムの事前段階としてカフェSin-éでのパフォーマンスをライブ録音し、EPの形でリリースします (後に完全盤 “Live at Sin-é (Legacy Edition)” がリリース)。 という風に長い経緯を経てようやく1994年にリリースされたのが1stアルバムの “Grace”。発売当初の売り上げは芳しいものでは無かったですが、Jimmy PageDavid BowieElton Johnなど著名人からの高い評価をまず受け、セールスを伸ばすと共に、同世代、後の世代のミュージシャンへも強い影響を与えました (例えば、RadioheadのThom YorkeがJeffのライブ・パフォーマンスに感動して ‘Fake Plastic Trees’ のギター弾き語りのレコーディングを行った逸話は有名)。アルバム収録曲で一番有名なものというとLeonard Cohenのカバー ‘Hallelujah’ ですね。ドラマや映画の劇中歌としても多く使われている曲ですので、聴いた事ある方も多いんでないかと思います。

 でさて “My Sweetheart The Drunk” の話。長い1stアルバムツアーの後、JeffはTelevisionのTom Verlaineをプロデューサーに迎え2ndアルバム作りに着手します。しかしながら作品の出来に満足しなかったJeffは、滞在していたMemphisに残りソロライブをしながら再度素材作りに取り掛かります。そしてバンドメンバーと1stアルバムのプロデューサーAndy Wallaceを呼び寄せリハーサルを再開しようとしていた1997年5月29日、友人とミシシッピ川で泳いで遊んでいる最中に溺死。Kurt Cobainの自殺と並ぶ1990年代最大のポピュラー音楽における悲劇でしょうね。残された音源をAndy Wallaceがミックスしたもの (1曲だけTomとJeffによるミックス) が遺作 “My Sweetheart The Drunk” のDisc 1となります (Disc 2はMemphisでのデモを中心に収録)。1stの楽曲 ‘Grace’ のような分かりやすく突き抜けた感じは無いのですが、良い楽曲が揃っており、TomがJeffに掛けた言葉「でも、このままだって、凄く良い音してるぜ」というのも納得の行くところではあります。この ‘Morning Theft’ なんか正にそんな感じですね。シングル的な派手さは無いものの美しいヴォーカルと巧みなギターワークによる、忘れ難い小品かと思います。多分私がこれまでで一番多くギターの練習した曲ですね。何カ所かギターが堪らなく美しい箇所があるんですよ。例えば1:23~のコード、名前呼ぶならD#Maj79という感じだと思うんですけど、私が一番好きな響きのコードですね。ここからDmに繋げるのが秀逸。まぁもしJeffが存命で2ndアルバム完成させていたらそこに残っていただろうかという楽曲ではあるのですが、Disc 2はかなりラフなデモという感じで、Jeffが改めて目指していた2ndアルバムがどういうものだったのか、知る事ができないのはとても残念です。