【音楽】名曲・名演セレクション その205 星街すいせいを研究する

 という訳でやりたくなったんで、星街すいせい特集です。良い曲が沢山あるんですが、今回は絞りに絞って2曲です。まずはこいつをどうぞ。

 

 星街すいせいの1stアルバム “Still Still Stellar” の1曲目。

 星街すいせいはホロライブプロダクション所属のヴァーチャルアイドル。自称すいちゃん、もしくは人呼んでサイコパすいせい。2018年3月に個人勢としてデビュー。キャラクターのオリジナルデザインも星街すいせい自身が手掛けたもの。2019年5月からホロライブ内の音楽レーベル、イノナカミュージックに所属。同12月にVTuberグループであるホロライブに移籍。ホロライブ内ではグループへの所属は遅かったものの、個人勢時代も合わせると古参という事で、0期生という位置付けになってます。21年9月に1stアルバム “Still Still Stellar” 発売。22年4月、この ‘Stellar Stellar’ の作曲者であるTAKU INOUEと組んだグループ、Midnight Grand OrchestraとしてToy's Factory傘下のVIAよりメジャーデビュー。アイドルを目指して活動開始し、飛躍の機会を求めてVTuber的活動スタイルに移行、しつつも歌手としての活動は大事に続けてきた、というこれまでの経緯になるかと思います。VTuberとしてのホロライブでの普段の活動ですが、歌配信の他はゲームプレイの配信が多いようですね。ゲームは基本的に得意のようですが、特にテトリスの腕前は国内でもかなり上位になる模様。

 で、アーティスト星街すいせいの魅力としては、以下2点に集約されるかと思います。

①圧倒的歌唱力

 上の動画でも伝わると思いますが、まだ半信半疑の方は星街すいせいのYouTubeチャンネル内に過去の音楽ライブ配信アーカイブがあるので、是非そちら観てみて頂きたい。本当に顎が外れそうになるくらい上手いので。以前、Snow Manの佐久間ニキこと佐久間大介がTVで星街の事を「現在のVTuberの中で一番歌唱力がある」と紹介されたのですが、それはまず間違い無いと思います。何ならリアルなシンガー合わせても、現在の日本でトップクラスに入るのでないかと。個人的には歌が上手いというのでこれ程に衝撃を受けたのは初めてです。

 で、歌が上手いというのをもうちょい掘り下げると、天与の才能である歌声の良さもあるのですが、様々な楽曲に合わせて声色を使い分ける巧みさ、更に魅力的なのが、かすれ声に至るまで細かなニュアンスを丁寧に伝えるデイテールの構築力ですね。カラオケ配信観てて思ったんですが、どうも星街は事前にどのように歌うかをしっかりプランニングしてから歌に臨んでいるように感じます。その辺に関して

TAKU INOUE×星街すいせい「3時12分」インタビュー|職人的トラックメイカーがVSingerに託した“門出の1曲” - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

からちょっと引用。

TAKU デモを送った翌日くらいには仮歌を入れて返してくれたんですよ。それがもうすでに仕上がっていて(笑)。強弱のリクエストがあったら言うつもりだったんですけど、すでにご本人が考えてくれた緩急の付け方がバッチリで。僕のやってほしいことを全部やってきてくれたので言うことがなかったんですよ。近年まれに見る衝撃の仮歌でした。

 という事で、ただ歌が上手いというだけでなく、どのように歌い上げるかのビジョンがしっかりある、または注文にしっかり合わせられる対応力の高さも、歌い手としての星街すいせいの特徴かと思います。

②楽曲の良さ

 星街自身が作曲している訳では無い (作詞はします。この ‘Stellar Stellar’ とか) のですが、どのような曲を歌いたいかというビジョンが星街自身にしっかりとあり、それを具体的にどんな人に頼むか (企業所属になった現在は全て人選まではしてないかもしれませんが) 、どんなオーダーを出すかまで含めて具現化する能力が星街にはあるように感じます。そのための作曲者の研究もきっと日頃からされているんでしょう。ちなみにホロライブは楽曲制作の依頼はVTuberの自腹らしいです。星街が自身の楽曲を ‘チート’ と称している動画があるのですが、恐らくそれだけ楽曲制作のためにお金を掛けているという事でないかと…。

 星街すいせい総論はここまでにして、以下各論に移ります。‘Stellar Stellar’ の作・編曲者はTAKU INOUE。元々はゲーム畑で仕事をされていた方で、バンダイナムコに所属し『アイドルマスターシリーズ』などの楽曲を手掛けられました。19年にフリーに転向し、月ノ美兎などVTuberと関わる事も増え、この22年4月に星街すいせいと組んでのユニット、Midnight Grand Orchestraとして活動開始。インタビューとか対談動画とか観てて感じたんですが、星街すいせいとはウマが合うみたいですね。音楽性その他諸々で相思相愛のコンビと言えようかと思います。楽曲に関して、歌唱力云々はもうさっき散々書いたのではしょるとして、注目点の一つは星街すいせい自身による歌詞かと思います。なんか切り取り動画観てたら普通に朝が苦手で嫌いらしいのですが、それだけに留まらず、「夜=自身が属するヴァーチャルの世界」、それに対する「朝=リアルの世界」というメタファーも込められているように思う…私は思うんだよ、そうじゃないと話が進まないのでその方向で頼みます、でそのメタファーに則り、自分はその夜の世界に輝く「星」であると歌い上げるという事で、一種星街すいせい自身のテーマソングになってるかと思います。星街すいせいは活動5年目ですが、これまで決してずっと順調だった訳でなく、特にこれまでの紆余曲折に連れ添ってきた古参ファンの皆様には深く心に染みる歌詞でないかと思います。楽曲ですが、これはEDMなんですかね?オジサンにはよく分からんのですが、オジサン的には突っ走るリズムがちょっとドラムンベースっぽいなと思いました。4/4を超えて突っ走るビートに合わせて歌声が伸びるのが最高に気持ち良いです。

 

 1stアルバム3曲目。まだ個人勢時代、活動1周年記念で公開された2ndオリジナルソング。ちなみに動画も星街すいせい自身。

 作詞・作曲担当のキタニタツヤはSSW、バンドsajou no hanaのベーシスト。「こんにちは谷田さん」という名義でボカロPをされていた時期もあり、この曲のアレンジがちょっとボカロ楽曲っぽいのはその辺出てるのかと思います。

 この曲に関しては、星街すいせい自身にも多大な思い入れがあるようで、まず星街が綴った文章のリンク貼ります。

Suisei Channel - YouTube

 この辺興味のある方はYouTubeに「星街すいせいの歴史」みたいなまとめ動画があるので、探してみて下さい。

 楽曲に関して星街がキタニタツヤに出したオーダーを星街すいせい - Wikipediaから引用すると、

「王道のアイドル路線の曲みたいなことは全然意識せず、アーティスティックな路線で、ちょっとハイカラな方向で作ってもらえたら」

というものであったとの事。このオーダーに応えたキタニによる尖りまくったコード感がこの楽曲の大きな特徴かと思います。イントロのアルペジオ、私耳が悪いんでどういうコードなのかググって調べようと思ったら、各所で全然違って全く参考にならないw まぁそれだけ複雑なコード遣いという事だと思います。キタニタツヤは日本のオルタナロックやマスロックの影響を受けたらしいんですが、その辺が出てると言えましょうか。複雑なエモーションを伝えるその濁ったコード感が、星街の王道感のある歌声とギリギリバランスを保っている感じが、この曲の素晴らしさですね。まぁこの曲がバズらなくて絶望感を覚えるというのもよく分かります。今では星街すいせいのオリジナルソングでもかなりの人気曲みたいですけど。

 

 Midnight Grand Orchestraについても取り上げたいと思ってたんですが、記事が大概長くなったんで、また別の機会にという事で。