【音楽】名曲・名演セレクション その160 Marvin Gaye / What's Going On

 今回はアルバム“What's Going On”発表50周年という事で、Marvin Gayeです。

マーヴィン・ゲイ『What's Going On』50周年記念 新規制作ビジュアル・アルバム公開 - amass

 

  Marvin Gayeの1971年作“What's Going On”より1曲目。

 Marvin GayeMotown Recordsの全盛期を代表するソウル・シンガーです。空軍除隊後いくつかのドゥーワップ・グループを渡り歩いて実力を付け、1960年頃にMotownとソロシンガーとして契約。1968年のシングル‘I Heard It Through The Grapevine’や同じくMotown所属の女性シンガーTammi Terrelとのデュエット作品で人気を確かなものとします。しかし1970年にTammiが脳腫瘍で夭折してしまい意気消沈、一時音楽活動を休止します。1970年のアメリカというとベトナム反戦運動の時代ですね。そういう時代において自分は今のままの音楽性で良いのかという悩みもあったようです。そしてその活動休止期間に弟がベトナム戦争から復員した事を切っ掛けに方向性を得て、71年のアルバム“What's Going On”発表で新たな音楽性を形にした訳です。この“What's Going On”、Rolling Stoneによる2020年版‘The 500 Greatest Albums of All Time’でもあらゆる他の名盤を抑えて第1位になっている程、現在でも高い評価を得ているアルバムです。

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 まぁ正直現代の時代性がいくらか味方したのかなという感じがしなくもないんですが。それはともかく、このアルバムが高い評価を得ているのは、勿論単純に音楽作品として出来が良かったからというのもあるんですが、いくつかの点において画期的だった事にも由来してます。まず第一に、それまでのMotownを中心としたブラック・ミュージックがシングル楽曲中心の産業形態だったのに対し、この“What's Going On”はアルバム全体で1つのテーマを掲げたコンセプト・アルバム、アルバム全体での完成度を志向したパッケージとなっている事です。これは多分当時のロック、“Sgt. Pepper's ~”とかThe Beach Boysなどなどから触発された面も大きかったのでないかと推測します。そしてそのアルバムのコンセプトに据えたのが、ベトナム戦争や公害、貧困といった当時のアメリカにおける深刻な社会問題というのもまた画期的でした。黒人視点からアメリカの社会を描いた作品というとCurtis Mayfieldとか色々あると思いますが、今作はそれら社会派の作品に先鞭をつけたと言えようかと思います。そして、アルバムをセルフ・プロデュースで制作するというのも当時画期的でした。Marvinは実はMotownに所属した初期はドラマーとしても活動しており、その時に他のスタジオ・ミュージシャン達と親交を深めた事がセルフ・プロデュースにおいてプラスに作用したようです。このセルフ・プロデュース路線は後進のStevie Wonderなどにも影響を与えたところですね。

 このアルバム以降のMarvin Gayeはあまり社会派の方向には進まず、性への欲求や結婚生活の破綻など、私小説的なテーマを扱った作品で名作を連発しています。そして1984年に実の父親から銃で撃たれ、44歳の若さで死亡。ソウル・シンガーの第一人者的存在でありますし、取りあえず昔のソウル・ミュージックを聴いてみたいという方、良い取っ掛かりでないでしょうか。一番上に貼ったリンクからアルバム全曲試聴できるんで、是非試しに聴いてみて下さい。