【書評】加藤元浩 / 捕まえたもん勝ち!シリーズ三作読んでみた

 今回はかなり久しぶりに本の感想です。ミステリです。ちなみに管理人はミステリと言えば専ら漫画、読んだミステリ小説とかホームズと米澤穂信と小説版金田一少年の事件簿しか思い出せない、しかも真面目に推理するのは金田一の真相当てクイズの賞品がかかってる時のみ、という超ライト級ミステリファンです。

 

  ミステリ漫画『Q.E.D.』『C.M.B.』でお馴染みの加藤元浩氏が初めて手掛けたミステリ小説です。主人公は元アイドルで警察官の七夕菊乃。あだ名はキック。加藤氏のミステリ作品と言えばワトソン役を務めるアクティブな少女とホームズ役の知性の権化の如き少年というのが定石でしたが、この『捕まえたもん勝ち!』シリーズでは主人公のキックがキャリア採用の警察官という事で主体的に推理に挑んだりと、これまでの定型を作者自ら崩す様が見られます。あと主人公が警察官という事で、組織内での様々な人間関係とかしがらみとか、そういう組織もの的な楽しみ方もできる。この小説、正直ミステリとしてはちょっとしたものです。ただ、最後明らかにされる真相にあっ!と驚かされたいという向きには合ってるかと。加藤ファンなら特に。

 

  犯人は量子人間を自称し、事件の関係者は米東海岸の名門大学生が中心という事でいかにも『Q.E.D.』的な事件ですが、そこに警察組織内部のドロドロした権力闘争(というか嫌がらせとか)が絡むのがこのシリーズらしさですかね。一作目は小事件を並べた連作集的な趣でしたが、今度のはガッツリ連続殺人です。密室殺人、不可能犯罪のオンパレード。トリックですが、論理的に詰めて考えれば「それしか無い」んですよね。そういう意味で加藤氏の手掛けるトリックはよく出来てると思います。それは今作も同様。

 

  第三作は暗い過去の歴史を抱えた太平洋に浮かぶ孤島で起こる連続殺人、しかも生首登場とかかなり陰惨な事件という事で、江戸川乱歩横溝正史以来の古式ゆかしき推理小説という趣です。ただ事件はかなりハードな筈なのに読んでてそんなおどろおどろしくないのは、このシリーズの持ち味なのかもしくは作者が持ちあわせている物なのか。今作も不可能犯罪など奇妙な事件のオンパレード。そして犯人が分かったと思ったらそこからまさかのどんでん返し。で真相ですが、私もその可能性は考慮したんですよ。まぁミステリ的には良くある展開ですからね。ただその容疑者の状況じゃどうやっても犯行は不可能と考えて考慮から外したんですが、まさかそんな“トリック”を使ってくるとは。人間関係の爛れまくった島じゃないと成立しないトリックとだけ申し上げておきましょう。褒めておくと、単なるアリバイとか密室とかを超えて事件そのものをメタ的に捉える視点というか。もしそんなもの駆使してくる犯人がいたら、クソ頭良いなと思います。

 

 という訳で三作の感想をギリギリネタバレにはならないように(もし感付かれた方がいらっしゃったら申し訳ない)書きましたが、どれも良かったですよ。もうお盆休みは終わりましたが、これから長くなる夜の無聊を慰めたい方、良ければどうぞ。